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賃金不払残業の是正結果に見る、最新の未払い残業代対策

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労働基準監督署の監督指導による、平成31年度・令和元年度の賃金不払残業の是正結果が公表されました。働き方改革により時間外労働の絶対的な上限規制が設けられ、テレワーク導入が進んだことにより過重労働を解消し、労働時間をいかに少なくして生産性を上げていくか、という考えは広く浸透してきたように思われます。しかし残業時間に対して適切な残業代、割増賃金を支払わない賃金不払残業のトラブルは後を絶ちません。公表された是正結果から、最新の賃金不払残業の問題と対策を整理します。

1.賃金不払残業の是正企業数は、まだまだ高い水準にある
2.労働時間の実態調査も大きなポイントに
3.未払い賃金の消滅時効期間の延長が、今後さらに賃金不払いを拡大させる?
4.就業規則の内容、勤怠システムの整備だけでなく、実際の運用が大事
5.まとめ

■賃金不払残業の是正企業数は、まだまだ高い水準にある

平成31年度・令和元年度の賃金不払残業の是正結果では、次の点がポイントとしてまとめられています。

(1)是正企業数 1,611企業

(100万円以上の割増賃金を支払った企業数)

前年度比157企業の減少
161企業

(上記の内、1,000万円以上の割増賃金を支払った企業数)

前年度比67企業の減少
(2)対象労働者数 78,717人 前年度比39,963人の減少
(3)支払われた割増賃金合計額 98億4,068万円 前年度比26億815万円の減少
(4)支払われた割増賃金の平均額 611万円

(1企業当たり)

前年度704万円
13万円

(労働者1人当たり)

前年度10万円

是正企業数と対象労働者数、支払われた割増賃金合計額も前年度より減少という結果にはなっていますが、是正企業数は過去10年間で3番目に多い数となっており、高い水準にあることには間違えありません。
働き方改革による法改正や、勤怠管理の重要性が広く浸透したことにより、賃金不払残業の問題が明るみに出やすくなったことも関係していると考えられます。

■労働時間の実態調査も大きなポイントに

監督指導の対象となった企業について、賃金不払解消のための取組事例もあわせて公表されています。固定残業代の適切な運用、1分単位での労働時間把握等、以前より大きく問題となっていた点もポイントとなっていますが、労働時間適正把握ガイドラインに基づく労働時間の実態調査も大きなポイントになっていることが分かります。
労働者へのヒアリングや、タイムカード打刻前に労働をさせているとの情報提供により、賃金不払が発覚したような事例も紹介されておりますが、「事業場への入退場を管理する静脈認証システムの記録」や「パソコンの送信メールのログ記録」と会社が記録している労働時間の乖離により実態調査を指導し、賃金不払いが発覚した事例も紹介されています。記録に出てこない実際の労働時間との乖離がないか実態調査を行うことは、賃金不払残業を防ぐために外せないポイントです。

現在はテレワークが浸透してきていますが、特にテレワークでは実際の労働時間との乖離を調査することが重要です。
未払い残業代リスクも!テレワークにおける労働時間把握

■未払い賃金の消滅時効期間の延長が、今後さらに賃金不払いを拡大させる?

2020年4月の民法改正にあわせ、労働基準法の一部改正が行われ、賃金請求権の消滅時効期間が、従来の2年→5年(当分の間は3年)に延長されました。
延長された消滅時効期間は、2020年4月1日以降に支払われる賃金から適用となります。もし現状について賃金不払いが発生しているような状態である場合、2020年4月1日以降に支払った賃金や残業代の未払い分は、3年間請求できることになってしまいます。これから3年後の賃金不払残業の調査では、今までより1年分多く遡って未払い賃金を請求できるため、今までと比べものにならない是正結果が出る可能性は高いです。特にIPOを目指す会社にとっては、簿外債務の存在や法令違反は審査に大きな影響を及ぼします。早急に残業代を含む賃金不払いの是正に取り組むべきです。

■就業規則の内容、勤怠システムの整備だけでなく、実際の運用が大事

就業規則や賃金規程の定めにより残業代支払いや固定残業代のルールをしっかりと定め、勤怠システムを整備し労働時間の1分単位把握や残業時間集計の設定を完璧にしたとしても、実際の運用と定期的な点検を疎かにしてはいけません。
賃金不払残業の解消のための取組事例では、タイムカードを所定の終業時刻に打刻させた後に労働を行わせていた事例や、始業時刻前に労働を行わせさらに1分単位ではなく労働時間を違法に切り捨てさせていたような事例が紹介されています。労働時間適正把握ガイドラインに基づく労働時間管理を、社員教育で労働者や管理者に浸透させることも重要です。
また固定残業代制度を導入していたが労働時間が全く把握されていなかったという事例も紹介されています。賃金規程として定められている制度が給与計算に反映されていない、割増賃金算定基礎賃金に含まれていないという事例も多くあります。制度としては正しいものを導入していたとしても、制度にあった運用がされていなければ意味がありません。
賃金不払いの可能性を考える上では、制度だけでなく労働時間把握方法を含めた実際の運用をセットで考え、定期的に点検することが不可欠でしょう。

■まとめ

賃金不払残業の是正結果から、賃金不払残業の問題と対策をみてきました。賃金不払いを考える上では実際の運用を含めた幅広い点検が重要となります。

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