職場における学び・学び直し促進ガイドラインから見る、今必要な人材開発とは
令和4年6月29日、厚生労働省より「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」が公表されました。
企業・労働者を取り巻く環境が急速かつ広範に変化し、労働者の職業人生の長期化も同時に進行する中で、労働者の学び・学び直しの必要性が益々高まっていることを背景にこのガイドラインが策定されました。本稿では、このガイドラインを元に、人材開発に関する基本的な考え方や学びのプロセス等について、解説いたします。
1.基本的な考え方
2.学びのプロセス
3.公的な支援策
4.まとめ
■基本的な考え方
1 環境の変化、働き方の個別化によるOJT機能の低下
企業を取り巻く経済・社会環境は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速化や、経済活動のグローバル化による企業間競争の激化など、急速な変化に直面しています。
また、組織・人員構成の変化や、リモートワークの浸透による働く時間・場所を始めとした働き方の自由度の高まり・個別化がみられるようになりました。
このような企業・労働者を取り巻く環境の急速かつ広範な変化は、上司や先輩の仕事を見て新しい能力・スキルを身に付ける機会の減少につながり、OJT による人材開発機能の低下をもたらしている可能性があります。
2 「自律的・主体的な学び・学び直し」の重要性
実践的な学びという観点からOJTの重要性は変わりませんが、今後の急速かつ広範な経済・社会環境の変化に対応し人材開発を強化していくためには、OFF-JT や自己啓発支援が重要です。
また、多様な人材の活躍(ダイバーシティ)が求められ、労働者のキャリアの多様化に伴い、労働者の必要な学び・学び直しの内容も個々に異なるものとなりうることから、自律的・主体的な取組が益々重要となります。
3 学び・学び直しにおける「協働」の必要性
労働者の自律性・主体性を尊重した学び・学び直しを、企業全体の力に高め、労働者本人と企業の双方の持続的な成長につなげていくためには、学び・学び直しを労働者任せにすることなく、企業が目指すビジョン・経営戦略といった基本認識を労使が共有し、協働して取り組むことが必要です。
また、学び・学び直しを促進する上では、労働者相互の学び合いや学びの成果の共有など、労働者間の協働も重要となります。
■学びのプロセス
1 必要な能力・スキルの明確化と目標の共有
労働者の自律的・主体的な学び・学び直しが効果的に行われるためには、職務に必要な能力・スキル等を可能な限り明確化し、労働者と企業が学び・学び直しの方向性・目標を擦り合わせ、共有することが重要です。
また、今後の更なる学びやキャリア形成につなげるという観点から、ジョブ・カードの活用を含め、個々の労働者が「節目」ごとにキャリアを振り返り、自身のキャリア・意向・適性を把握することも重要なプロセスとなります。
2 効果的な教育訓練プログラムの提供と伴走的支援策の展開
自律的・主体的な学び・学び直しを促進するためには、教育訓練プログラムの提供・情報提供をはじめとした機会の提供や、時間の確保、費用の支援などの学び・学び直しのための環境整備や支援を行うことが重要となります。
また、持続的なキャリア形成を支援する観点から、キャリアコンサルタントによる伴走支援等、キャリアについて考え、話し合う機会を積極的に設けるとともに、労働者の学び・学び直しの意欲や成果が活かされるような多様な「選択肢」(例:社内公募制や副業・兼業等の機会)を確保することが望ましいです。
■公的な支援策 (令和4年6月時点)
学び・学び直しの実践に向けて、国などが講じている公的な支援策やツールにつきまして、一部ご紹介いたします。
・職業情報提供サイト(日本版 O-NET)(job tag(じょぶたぐ))
職業に関する情報やキャリア分析・職業能力チェックのためのツールなど、労働者や企業が活用できる様々な機能を提供するサイト。
・キャリアコンサルタント検索システム(キャリコンサーチ)
キャリアコンサルタントを探したい企業担当者や個人等の利用者が、全国にいるキャリアコンサルタントを検索することができるシステム。
・キャリア形成サポートセンター事業(キャリア形成サポートセンター)
労働者一人ひとりのキャリア形成支援・能力開発を通じ、人と組織の活性化を促すさまざまな支援を実施。
「ジョブ・カード」を活用したキャリアコンサルティングや、「セルフ・キャリアドック」(※)の導入支援などのサポートを、無料で受けることが可能。
・ジョブ・カード(ジョブ・カード制度総合サイト)
個人のキャリアアップや、多様な人材の活躍等を促進することを目的とした「生涯を通じたキャリア・プランニング」と「職業能力証明」のためのツール。
・生産性向上支援訓練(生産性向上人材育成支援センターにおける生産性向上支援訓練)
生産性向上人材育成支援センターにおいて、中小企業等が事業展開を図るために必要な従業員の人材育成や生産性を向上させるために必要な知識などを習得する職業訓練を実施。
・人材開発支援助成金(特定訓練コース・一般訓練コース・特別育成訓練コース・人への投資促進コース )
事業主等が雇用する労働者に対して計画に沿って訓練を実施した場合や、教育訓練休暇等の制度を導入し、その制度を労働者に適用した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度。
・社会人の学び直し情報発信ポータルサイト(マナパス)
「いつでも・どこでも・誰でも」学べる社会に向けて、社会人の学びの情報を掲載するポータルサイト。
社会人が大学等で学べる講座の検索が可能であるほか、在学生・修了生へのインタビューやコラム、学習者・企業への支援制度を掲載。
■まとめ
学び・学び直しを行うための取組には時間と労力がかかりますが、学び・学び直しの重要性を理解し、人材開発を推進する事は、労働者のエンゲージメント向上に資するだけでなく、求職者・顧客から選ばれる企業文化・企業風土の醸成にもつながります。自律的・主体的な学びの実践や人材開発の取り組みに向けて、今回ご紹介しました「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」を是非ご参考にしてください。
弊社では、キャリアコンサルタントによる支援の他、人材開発につながる職務評価制度のご提案など、人事制度に関する支援を幅広く承っておりますので、お困りの際は、お気軽にご相談ください。