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意外な落とし穴も?社会保険の手続きの注意点

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会社は従業員を雇用するにあたり、社会保険(健康保険、厚生年金)の手続きを適正に行う必要があります。加入すべき従業員を加入させていない、随時改定や賞与等の手続きを間違っていたということがあった場合、IPOの審査にも影響を及ぼすことがあります。本稿では、社会保険の適正な手続きに関する注意点について解説します。

1.社会保険手続きに関する注意ポイント
2.加入手続きはさらに複雑に
3.テレワーク、副業・兼業にも注意が必要
4.社会保険適用範囲拡大に備え、助成金の活用も
5.まとめ

■社会保険手続きに関する注意ポイント

社会保険手続きで、よく間違えのある注意ポイントには、次のようなものがあります。

1.加入手続きの漏れ

社会保険に加入が必要となる従業員の範囲は、法律で定められています。例えば所定労働日数、所定労働時間の関係で社会保険対象外となっていたパートタイム社員が、労働条件変更によりフルタイム勤務に変更となったにも関わらず社会保険に加入させていない等、加入すべき従業員を加入させていない場合は、遡って加入を求められます。

2.標準報酬月額の算出間違え

社会保険料の計算基礎となる標準報酬月額についても、含むべき賃金の範囲が定められています。金銭で支払わず現物支給している通勤定期代、住宅、食事についても現物給与として標準報酬月額に含む必要がありますが、社宅分が現物給与として含まれていない、厚生労働大臣が定める現物給与価格の改定が反映されていないという場合も多いです。またテレワーク普及により加入時に通勤交通費を標準報酬月額に含めなかったが、勤務実績により結果として通勤交通費を支払った場合、「報酬の見込み額」として加入時に含めるべきだったとして、加入手続きの訂正を求められることもあります。このような場合、正しい標準報酬月額で計算した差額を支払わなければなりません。

3.賞与支払届の提出漏れ

従業員に支払う賞与についても標準賞与額として社会保険料の計算に含めなければなりません。規定で賞与として定めていないインセンティブや、大入り袋と同義としていた手当が社会保険上の賞与として指摘されるケースもあります。賞与と指摘を受けると、賞与分の保険料支払いが必要です。また年4回以上支払われる賞与の取扱いについても、賞与分を標準報酬月額に加算する必要がありますので注意が必要です。

4.保険料計算の間違え

毎年改定が行われる保険料率、介護保険対象に該当するか等の間違えについては、給与計算システムの機能向上により間違えを防げるようになってきてはいますが、まだまだ注意は必要です。2020年9月には厚生年金標準報酬月額の最高等級が1つ追加され、新型コロナウイルス感染症の影響による随時改定の特例改定が継続されている等、最近も新しい制度変更が続いています。認識の間違えや計算ミスにより、正しい保険料の支払いが必要となることも少なくありません。

■加入手続きはさらに複雑に

社会保険の加入対象として手続きを行うかどうか、加入に関する手続きは今後さらに複雑になっていきます。

2016年10月より、短時間労働者への社会保険の適用範囲が拡大されていますが、2022年10月からは現状の従業員501人以上規模の会社から、従業員101人以上規模の会社に対象範囲が広がります。

・所定労働時間が週20時間以上

・賃金が月88,000円以上

・雇用期間(見込みを含む)が2ヵ月超であること

・学生ではないこと

従業員101人以上規模の会社に勤める従業員が以上の要件を全て満たす場合、社会保険に加入させなければならなくなります。中小企業や、審査を受ける関係会社についても大きな影響を及ぼすでしょう。

■テレワーク、副業・兼業にも注意が必要

新型コロナウイルス感染症の影響もあり、新しい働き方としてテレワーク、副業・兼業が取り入れられるようになり、これからも制度導入は推進されていきます。しかしこのような働き方を取り入れる場合にも、社会保険上の注意が必要です。

テレワークや休業により減少した労働時間を副業・兼業、兼務出向にあてる場合がありますが、上記のように短時間労働者にも社会保険加入が必要になる場合があり、その手続きを漏らさないようにしなければなりません。さらに社会保険の場合は、複数の事業所で被保険者資格を有する場合、それぞれの事業所で加入手続きを行わなければなりません。その場合には被保険者が「二以上事業所勤務届」により、主たる事業所(健康保険証の交付等、当該被保険者に関する事務を行う保険者)を選択しますが、保険料はそれぞれの事業所より支払われる賃金額を合算したものが標準報酬月額として決定され、賃金支払額の割合に応じて保険料を按分し、それぞれの事業所が按分された保険料を支払います。まず短時間労働者の社会保険適用範囲が広がることにより、加入手続きを漏らさないようにすることが重要となりますが、社会保険に加入させなければならない短時間労働者が増えることにより、二以上事業所勤務届の手続きと、それに伴う保険料計算をしなければならない対象者が増えることになり、保険料計算がより一層煩雑になる可能性があります。

■社会保険適用範囲拡大に備え、助成金の活用も

社会保険に加入する対象者が増えるということは、法定福利費や販管費の負担増加にもつながりますので、経営計画や採用計画にも考慮すべきです。大幅な負担増加が見込まれるのであれば助成金の活用も考えられるかもしれません。

令和3年度予算の概算要求では、2022年10月からの社会保険適用範囲拡大を見越してか、「被用者保険の適用拡大に当たっての周知・専門家活用支援」として前年度の3倍近い7.6億円の予算が盛り込まれています。現在もキャリアアップ助成金「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」で、労使合意による任意での社会保険適用拡大の導入について、その取組にかかる助成が用意されています。来年度も同じような施策により、自主的な社会保険適用拡大を推奨していく可能性も考えられます。

■まとめ

社会保険の適正な手続きは、改正点も多く、日々の労務管理に追われミスが発生しやすいポイントです。しかし保険料の認識間違えは思わぬ簿外債務につながる可能性もあり、特に最大2年間の遡り加入は、対象人数によっては大きなインパクトとなります。注意点や今後の改正点を改めて確認し、審査に影響が無いように進めていただければと思います。

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