残業月45時間でも指導対象!?令和2年度監督指導結果から取るべき対策
厚生労働省は8月20日に「長時間労働が疑われる事業場に対する令和2年度の監督指導結果」を公表しました。この監督指導は、各種情報により時間外・休日労働時間数が1ヶ月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場を対象としています。厚生労働省は今後も長時間労働是正に向けた取組を積極的に行い、11月の「過重労働解消キャンペーン」期間中にも重点的な監督指導を行うとしています。監督指導結果や事例から、どのような対策を取るべきなのでしょうか?
1.主な法違反の内容
2.健康障害防止に関する指導は増えている
3.大企業こそ対策が必要
4.健康経営への取組推進を
5.まとめ
■主な法違反の内容
令和2年度に監督指導が実施された事業場は24,042事業場でした。主な法違反(法違反があり、是正勧告書が交付されたもの)の内容は次の通りです。
法違反内容 | 事業場数 | 割合 |
違法な時間外労働があったもの | 8,904事業場 | 37.0% |
賃金不払残業があったもの | 1,551事業場 | 6.5% |
過重労働による健康障害防止措置が未実施のもの | 4,628事業場 | 19.2% |
コロナ禍で監督指導の実施件数は減っていますが、長時間労働が疑われる事業場の多くでは、当然に高い割合で時間外労働に関する法違反が発覚していることが分かります。
「違法な時間外労働」については、時間外労働の上限規制の違反だけでなく、36協定の締結違反や、36協定で定める協定時間の違反等も含まれています。実際に違反事業場の中で、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数は、月80時間以下が5,922事業場(66.5%)でトップとなり、時間外労働の上限規制を超えるような過重労働がある事業場ばかりが法違反の対象となっているわけではありません、36協定締結等の基本的な義務を果たしていることは重要となります。
■健康障害防止に関する指導は増えている
過重労働による健康障害防止のための指導が増えている、ということについても注目しなければなりません。監督指導が実施された事業場の中で、健康障害防止に関する指導(健康障害防止のための指導票が交付されたもの)があったのは9,676事業場(40.2%)でした。
指導内容別では「時間外・休日労働を月45時間以内へ削減」という内容が5,188事業場で最も多く、法違反にならない状態であっても、厳しい水準で過重労働を防止するための指導が行われています。実際に弊社の顧問先においても、時間外労働時間数が時間外労働の上限規制に抵触せず、36協定の協定時間内であるにも関わらず、業務繁忙期に監督指導を受けたことにより、時間外労働を月45時間以内に削減するように指導票が交付されてしまったという事例もありました。
■大企業こそ対策が必要
企業規模別の監督指導実施事業場数は、従業員300人以上が7,871事業場(32.7%)でトップとなっています。企業規模が大きくなると労働安全衛生法で定める衛生委員会等の設置や
ストレスチェック実施等、法律上の義務も多くなり、しっかりと対策をしていく必要があります。
監督指導事例もあわせて紹介されておりますが、大企業で「1ヶ月80時間を超える時間外・休日労働を行っている労働者に対して、医師による面接指導を実施する制度が導入されていなかった」として是正勧告を行った事例も紹介されています。面接指導の実施や産業医への情報提供等、健康障害防止に関する義務に対応できていない会社もまだまだ多い印象があり、今一度制度や運用の確認が必要です。
■健康経営への取組推進を
平成31年に時間外労働の上限規制や年5日の有給休暇取得義務を定めた改正労働基準法が施行されましたが、法律上の義務を守ることは当然として、より未然に健康障害を防止するための措置を求めるように監督指導の内容がシフトしてきているように感じます。
約20年ぶりとなる過労死ライン見直しの議論も進んでおり、従業員の年齢や、より具体的なレベルで自社の健康課題を把握しているか、というお話を労働基準監督署の監督官から伺うことも増えました。
主な監督指導結果である「違法な時間外労働」や「健康障害防止措置」については、健康経営の考え方を取り入れることによって課題解消することが可能です。健康経営に取り組むことによって、過重労働防止や健康課題を解消するための計画に取り組むことになりますので、必然的に監督指導の対策となります。「長時間労働が疑われる事業場」は立入調査が入る可能性も高くなりますが、健康経営に取り組むことによって長時間労働の対策が行われているアピールにもなるかもしれません。
※過去コラムでも解説しています
過労死ライン見直しに向けた議論が開始!勤怠管理に与える影響とは
健康経営の取り組みが偏差値として数値化!IPOにも有効な健康経営
■まとめ
長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果から、是正指導内容のポイントや対策をご紹介しました。監督指導の結果からも、法違反にならないように対策を取るだけではなく、健康経営の考え方を取り入れることが重要になってきています。法令順守や従業員の満足度向上、企業イメージアップ等、様々なメリットがある健康経営を推進していきましょう。
※YouTube動画でも解説をしています
【YouTube】健康経営のメリットと実践方法について