予防だけでは意味がない!?増え続ける精神障害への対策やトレンドとは

2025年6月25日、厚生労働省より令和6年度「過労死等の労災補償状況」が公表されました。
こちらでは過重な仕事、いわゆる過労死等が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の状況について、労災請求件数や労災保険給付の支給決定件数などが取りまとめられています。
健康障害を引き起こすような働き方は重大な社会問題となっており、特にハラスメントや人間関係、業務による精神不調をどのように予防するか、対策をとっていくかは多くの企業にとって課題となっています。本稿では、精神障害に関する労災補償状況に注目し、精神障害を取り巻く現状と課題を解説します。
1.業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況
2.精神障害を取り巻く直近の状況
3.どのように精神障害を予防すべきか
4.まとめ
■業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況
公表された「過労死等の労災補償状況」によると、業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況は次のようになっています。
- 労災請求件数 3,780件
- 労災支給決定件数 1,055件
- 業種別の傾向
請求件数、支給決定件数ともに「医療、福祉」が最も多くなっている。 - 職種別の傾向
請求件数、支給決定件数ともに「専門的・技術的職業従事者」が最も多くなっている。 - 出来事別の傾向
心理的負荷の強度を評価するために抽象化された一定の事象、いわゆる支給決定の理由を大まかに表すものとしては、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」の順に多くなっている。
精神障害に関する労災支給決定件数はついに1,000件を超える集計結果となっており、仕事や職業生活において、精神障害が健康に及ぼす影響が大きくなっていることが分かります。
また傾向として「専門的・技術的職業従事者」の件数が多くなっており、仕事の特殊性や責任範囲が大きく、周りのフォローが難しい、またはプレッシャーとなりやすいような状況があるのかもしれません。ジョブ型雇用が進むことによりこの傾向は続いていくことになるかもしれません。
2025年6月4日には企業へのカスハラ防止対策等を定めた改正労働総合施策推進法が成立しましたが、よりハラスメントに関する対策は重要になってくると考えられます。
■精神障害を取り巻く直近の状況
精神障害を起因とした労災請求件数、支給決定件数はここ数年で大きな変化をしています。
業務災害に係る精神障害の請求、決定及び支給決定件数の推移では、請求件数、支給決定件数ともに年々増加を続けています。
別添資料2 業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況
特に2022年から直近3年間の増加は著しく、請求件数では前年と比較して約130%の増加を続けています。
(2022年:1,986件 → 2023年:2,583件 → 2024年:3,494件)
業務災害に係る精神不調に対する保護が進んできているというポジティブな評価が考えられる一方で、引き続き精神的な不調を防ぐための対策がより重要になってくると考えられます。
■どのように精神障害を予防すべきか
それではこれらの状況を踏まえ、健康障害を防止するために精神不調をどのように予防し対策すべきなのでしょうか?
厚生労働省より昨年公表された令和5年度「過労死等防止対策白書」によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、 63.8%と高い数字になっています。
事業所規模別で見ても、50人以上の事業所はおおむね90%を超え、30人未満の事業所でも56.6%となっています。
厚生労働省「令和5年版過労死等防止対策白書」
メンタルヘルス対策は多くの企業に浸透しつつある一方で業務災害に係る精神障害が増え続けている実態を考えると、精神障害を予防するだけでなく、ストレスは完全に排除することができない、精神的な不調は誰にでも起こり得る可能性を考慮した上で、復職・リワークの観点で支援を行う、強化する等の工夫が求められているのかもしれません。
■まとめ
令和6年度「過労死等の労災補償状況」から、精神障害に関する課題や現状をご紹介させていただきました。
ストレスチェック実施対象拡大等が含まれた改正労働安全衛生法も成立し、今後も精神障害を防ぎ、対策していくための仕組みは推進されていくものと考えられます。予防と対策だけでなく、精神障害が起こってしまった場合の支援や定着はより重要になっていくでしょう。
汐留社会保険労務士法人では、企業の労働安全衛生やメンタルヘルス不調対策等、働く環境づくりに対して様々なご支援をさせていただいております。課題やお困りごとがございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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