【社労士解説】多くの企業が予測する「ビッグステイ」時代 ── 人が辞めない時代に効いてくる”滞留させない”人事制度
「離職率が減ったのは良いのですが、ポストが空かず、組織の新陳代謝が難しくなっています」。
ある企業の経営者から伺った言葉です。これから3年以内に日本にも「ビッグステイ」が到来すると予測している調査があります。ここ最近話題となっている「ビッグステイ」とは、どのような状態でどのような課題があるのでしょうか?本稿では、人が辞めない時代に人事制度が抱えるリスクと備えを解説します。
2.定着すれば解決、ではない
3.賃上げも教育投資も「偏り」が生まれている
4.ぶら下がりを生まない人事制度の3条件
5.まとめ
■ 「大転職時代」の裏で起きている変化
「ビッグステイ」とは、同じ会社に留まる労働者の賃金上昇率が転職者を上回り、人が動かなくなる現象を指します。米国で先行して観測され、日本への波及が意識され始めています。
企業の人材に関する課題を調べた結果、「新規人材の確保」という回答を「人材の定着」が上回るという調査もありました。人材に関する課題は、外から採用することから、企業の中で定着させ活かすことへ移りつつあります。
■ 定着すれば解決、ではない
ただ、離職率が下がれば人事課題が消えるわけではありません。人が動かない組織では、管理職ポストが空かず昇進が停滞し、社内の役割分担が固定化してしまうことがあります。会社を辞めないまま意欲だけが下がる、いわゆる「ぶら下がり」の状態が生まれやすくなってしまうリスクもあります。
「シニア人材の活用が進まない」という課題が、「若手の早期戦力化が進まない」という課題を上回った調査結果もあります。長く在籍している層を、どう戦力として位置づけ直すかが、すでに現実の課題になっています。
■ 賃上げも教育投資も「偏り」が生まれている
2025年の賃上げ実施率は20〜50代の全年代で約8割と差がありませんが、4%以上の高水準の賃上げは20代が約3割に対し、40代・50代は各2割程度に留まっています。定着施策は若手の層に手厚く、中高年層には薄くなりがちな構図が見えてきます。
教育投資も同様です。教育訓練費に1万円以上投資した企業は約8割、平均投資額は約200万円と年々増えている一方、従業員3〜50名の企業では教育投資をしている企業の割合が約6割に留まっています。従業員の定着を賃金だけで解決しようとすると限界もあり、いずれ人件費が硬直化していまうという結果も生じてきます。
■ ぶら下がりを生まない人事制度の3条件
それでは働く従業員の意欲低下、いわゆる「ぶら下がり」を生まない人事制度の条件とはどのようなものがあるのでしょうか。
① 役割で処遇する等級制度
在籍年数ではなく、担う役割の大きさで等級と報酬が決まる仕組みに切り替えます。役割が変わることで処遇も変わる設計であれば、滞留そのものがリスクになりにくくなります。
② 管理職以外の上位コース
ポストが空かない、硬直化してしまう前提に立ち、専門職コースなど複線型のキャリアパスを用意します。昇進以外のキャリアプランやコースを示すことができれば、停滞感を大きく和らげることができます。
③ 中高年層への学び直しの投資
教育投資を若手に集中させず、中高年層にも役割転換を前提とした学び直しの機会を設けます。定年後再雇用の処遇設計と一体で考えることが有効です。
■ まとめ
人が辞めない状態は、それ自体が目的になってしまってはいけません。求められているのは「ただ人が定着する」「残る」だけではなく、「戦力として定着する」ことです。定着率の改善と同時に、等級・評価・キャリアパスの設計を見直しておくことが、ビッグステイ時代の備えになります。
汐留社会保険労務士法人では、等級・評価・報酬制度を一体で設計する人事制度設計コンサルティングや、キャリアコンサルティングにより、こうした課題の解決を支援しています。制度の見直しをご検討の際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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