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コロナ、過労死、テレワーク・・最新の労災補償業務運営ポイントに見る、労務管理の注意点

労務管理

3月9日、厚生労働省HPに「労災補償業務の運営に当たって留意すべき事項について(令和3年2月22日/労災発0222第1号)」という資料が掲載されました。これは令和3年度の労災補償業務運営について、都道府県労働局長宛に発出されたものですが、新型コロナウイルス感染症、過重労働、ハラスメント、テレワーク、副業・兼業等の、現代の人事トピックに関係した内容が記載されています。この資料の内容から労務管理で注目すべきポイントを解説します。

1.資料の構成
2.新型コロナウイルス感染症への対応
3.過労死等事案に係る的確な労災認定
4.迅速かつ公正な保険給付を行うための事務処理の徹底
5.まとめ

■資料の構成

この資料は次のような構成になっており、この中から注目すべきポイントを詳しく見ていきます。

第1 労災補償行政を巡る状況への対応
第2 新型コロナウイルス感染症への対応
第3 過労死等事案に係る的確な労災認定
第4 石綿関連疾患に係る的確な労災認定
第5 その他の職業性疾病事案に係る的確な労災認定
第6 迅速かつ公正な保険給付を行うための事務処理の徹底
第7 外国人労働者への懇切丁寧な対応
第8 毎月勤労統計等に係る追加給付対応
第9 労災補償業務の実施体制の確保と人材育成

■新型コロナウイルス感染症への対応

新型コロナウイルス感染症に係る労災請求件数は資料掲載時点で4,000件以上に上るとされ、今後も請求件数の増加が想定されることから、重要なポイントとして記載されています。
まず前提として、新型コロナウイルス感染症の罹患が労災保険給付の対象になるかどうかは、「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取り扱いについて(令和2年12月1日改正/基補発0428第1号)」に考え方が示されています。

医療従事者等→業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付対象

それ以外→当分の間は感染経路が特定されなくても、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したと認められる場合は、労災保険給付の対象

幅広い業種で労災保険給付の対象に可能性もありますので、請求漏れがないよう注意が必要です。また労基法上の休業手当が必要なケース、健康保険の傷病手当金を請求できるケースがありますので、厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A」もしっかりと確認をしておきましょう。

■過労死等事案に係る的確な労災認定

過労死等に係る労災請求件数は掲載時点で2,900件以上に上るとされ、こちらも重要なポイントとされています。実務上では次の点も確認しておきましょう。

1.労働時間の的確な把握

労災認定のためにも「使用者の指揮命令下にあることが認められる時間を的確に把握すること」が必要とされています。タイムカード、入退場記録、PCの使用時間等の記録を収集し始業・終業時間、休憩を詳細に特定することだけではなく、移動時間について留意すべきです。移動時間は「業務に必要な移動を命じ、移動時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当する」とされますので、特にテレワークの普及により「いつ、どこでも」業務指示が行えるように環境が整っている会社については、移動時間も労働時間と判定される可能性があることに注意しましょう。未払い残業代のリスクに加え、過重労働による労災リスクも考えられます。

2.過労死等の認定基準の見直しについて

2020年6月にはパワーハラスメント防止法が施行されたことを踏まえ、心理的負荷による精神障害の認定基準の心理的負荷評価表で、パワーハラスメントの追加等が行われています。人間関係やハラスメントを理由とした労災請求件数も年々増加しており、脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準についても見直しの検討がされています。ハラスメント対策は法的な義務であるということに加え、労災リスクにもなり得るということを認識する必要があります。

■迅速かつ公正な保険給付を行うための事務処理の徹底

労働局が遵守すべき事務処理手順の中にも注目すべきポイントがあります。

1.労災かくしの排除に係る対策の一層の推進

協会けんぽから保険給付の不支給(返還)決定を受けた者の情報を得た場合、労災請求の勧奨を行うこと、労働者私傷病報告の提出年月日が確認できない場合は監督部門に情報の提供を行うこと等が記載されています。特別加入の手続きが適切にされていない、労災事故に該当するかどうかにかかわらず健康保険の保険給付を行う、というケースも未だに見ることがありますが、不正な手続きは、監督指導やメリット制に影響が出ることもありますので、適切な対応が必要です。

2.テレワーク中に負傷等した場合の労災補償の取扱い

基本的な考えとして、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じた災害は労災補償の対象となること、ただし私的行為等業務以外が原因であるものについては労災補償の対象外ということが示されています。例えばテレワーク中の休憩時間にカフェで業務を行う等、業務指示を行っていなかった時間や場所で起きた労災事故について労災補償の対象にならないことも考えられるため、労災認定の観点からも、テレワーク中の始業・終業時間、業務指示、就業場所を明確にするということはポイントとなります。

3.複数事業労働者への労災保険給付

2020年9月より、複数就業者の給付基礎日額の算定、給付の対象範囲拡充等を定めた改正労災保険法が施行されておりますが、複数就業者の労災申請は複雑化しています。3月18日には「複数事業労働者の休業(補償)等給付に係る部分算定日等の取扱いについて(令和3年3月18日基管発0318第1号・基補発0318第6号・基保発0318第1号)」も発出され、休業(補償)等給付の要件(療養のため、労働することができない、賃金を受けない)について、一方の就業場所では要件を満たさないが、一方の就業場所で要件を満たす場合、支給対象となることがある、というような考え方も示されています。

↓こちらもご参考ください。
【YouTube動画】労働者災害補償保険法の改正~複数の会社等で働かれている方への保険給付が変わります~

■まとめ

労災補償業務の運営に関する資料の内容から、労災認定や労務管理で注意すべきポイントを見てきました。労働安全衛生は、従業員が長く勤めていただくために重要なポイントとなりますので、労務管理の見直しや改善にも活かしていただければと思います。

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