シニア層のチカラを企業力に──70歳までの就業機会確保時代のリアルと未来戦略①
■あなたの会社では70歳まで活躍できる仕組みは整っていますか?
人口減少・高齢化が加速する中、単なる制度対応だけでなく、シニア層を“戦力”としてどう活かすかが企業存続の鍵の一つとなっています。2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法により、企業には「70歳までの就業機会を確保する努力義務」が求められるようになりました。この制度変更は、シニア層の雇用だけでなく、日本全体の人口構造変化への“生存戦略”として位置付けられています。
■現場の実態と制度対応のギャップ
令和7年度厚生労働省集計のデータによると、2025年時点の生産年齢人口(15歳~64歳人口)は約7,310万人、これはピークであった1995年と比較して約1,400万人減少となっており、推計値では2032年に7,000万人、2043年には6,000万人を割り込むなど、今後の人手不足が大いに懸念されます。一方、2030年には高齢化率(65歳以上が全人口に占める割合)が30%を超えるなど、生産年齢人口の減少を65歳以上の働き手で補うことが、労働力確保の大きな選択肢の一つとなっている現実があります。また、65歳以上の就業希望者は着実に増え続けており、内閣府調査でも「働けるうちは働きたい」と答えた高齢者が8割超、70代前半でも高い就業意欲が見られます。

しかし、現場に目を向けると、企業サイドに制度の理念が十分に浸透しているとは言い難い状況があります。形式的な就業規則改定や名ばかりの再雇用など、単なる制度遵守に留まる実例が多く、「本人の意欲・スキルを活かす」「戦力化する」という本来の趣旨に叶っていないと思われる例が少なくありません。
■シニア本人・家族の心情と社会的側面
高い就業意欲がある一方、定年後の大幅な収入減・曖昧な役割配置を前に、「このまま働き続けてよいのか」「家族への負担は?」といったシニア層自身に不安や葛藤があるのも現実です。また家族の方でも「健康を重視してほしい」「社会とのつながりを保ってほしい」といった期待や心配が複雑に絡み合うケースも多いようです。今後は、当事者や家族の不安に寄り添う視点を、会社側も意識する必要がありそうです。
■制度の具体的な課題
評価と報酬制度の歪み
定年後に年収が半減、あるいは1/3になる事例は少なくありません。これはそれまでの役割や働き方が大きく変わるという意味で合理的な面もありますが、仮に職務内容がほぼ同じで報酬だけが下がれば、働く意欲を失うのは当然です。能力・貢献・成果に応じた評価体系がなければ、高年齢者は「やらされ感」を抱き、形だけの雇用延長に終わってしまいます。
役割設計の曖昧さ
再雇用後のシニア層が、実質的に補助的業務や待機ポジションに置かれている例が多く見られます。「若手のサポート要員」「緊急時の穴埋め」といった立ち位置では、長年の経験も人脈も活かされません。こうした“名ばかり再雇用”は、本人の自尊心を損ね、結果的に早期離職を招く要因となります。
組織風土・意識の壁
若手がベテランに遠慮して意見できない、あるいは上司世代が「今さら学び直しは無理だ」とシニア層の成長を諦めてしまう、こうした相互の心理的壁が、シニア層とのコミュニケーションの阻害に繋がってしまうこともあります。これらは結果として、シニア層の新たな活躍の可能性を模索する、ないしはそのような場を作ろうという方向に、会社として向いていないということはないでしょうか。
健康リスクと安全対策
シニア層の就業機会拡大と共に、労働災害防止に向けた取組み、健康リスク管理の強化も重要です。シニア層特有の健康リスクに対応した具体策を用意している企業は少なく、シニア層の身体的・精神的健康管理や医療機関との連携、シニア層のフィジカル面及びメンタル面における現状をきちんと把握するとともに、職場におけるリスクアセスメントの実施、職場環境改善のためのガイドライン制定(エイジフレンドリーガイドライン)、シニア層の状況を踏まえた労働時間や働く場所を柔軟にする制度の導入、安全衛生教育の実施など、企業の支援体制の整備・拡充も課題と言えます。
■まとめ──「今の延命策」から「未来の戦力化」へ
本来、70歳までの就業機会確保は「延命策」ではなく、「世代を超えた共創」を実現するための契機であるべきです。しかし現実は、制度遵守にとどまり、戦略的な人材活用に結びついているとは言えません。制度を整えることが目的化し、「活かす」視点が置き去りになっているように感じます。今企業に求められているのは、「シニア層をどう雇うか」ではなく、「どう戦力化するか」ではないでしょうか。
次回は、そのために必要な5つの具体的方策を提示いたします。評価制度、教育体系、メンタリング、働き方、キャリア設計――これらを組み合わせることで、シニア層が真に輝く組織の実現につなげる方法をご紹介していきたいと考えています。
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