シニア層のチカラを企業力に──70歳までの就業機会確保時代のリアルと未来戦略②
■多様なシニア層と今求められる経営視点
日本の職場では、依然として「高年齢者=コスト」「定年後=補助的存在」とする固定観念が根強くあります。一方で、社会の人口動態変化を見据えると、シニア層の経営資源としての活用はますます重要になっています。シニア層と一口に言っても、時代の流れとともに従来のイメージとは大きく変化しており、今では男性だけでなく「女性シニア」「外国人シニア」といった幅広い属性、性別や国籍、職歴、働き方、価値観といった面で、多様化が進んでいます。
このように、シニア層の多くは、長年の経験、業種横断的なノウハウ、顧客理解、現場勘のみならず、さらに多様な知識や経験、文化のバックグラウンドを持つ貴重な人材だと捉える必要があります。こうした多面的な視点・経験を組織に活かし、次世代に継承することは、まさに人的資本経営推進の中心的施策と言えるのではないでしょうか。
■5つの具体戦略
では、企業がシニア層を活かすために取るべき5つの戦略は何かについて、見ていきたいと思います。
① 評価制度の再設計 ― 「役割評価型」への転換
最初に、評価制度についてです。評価そのものについて、もともとシニア層のポテンシャルを評価する仕組みを持つ企業が少ないこともありますが、従来の仕組みの延長線上で評価するのではなく、「果たすべき役割」を明確にし、「達成度」で評価する仕組みに変える必要があります。例えば、シニア層を「若手育成担当」「品質管理担当」「ダイバーシティ担当」等、これまでに培った経験等を十分に活かせるように、担うべき役割と達成すべき成果を明確化し、それに応じた報酬レンジを設定することが有効です。また、評価者には上司だけでなく、他部署や後輩社員などからのフィードバックを取り入れた多面的評価を導入することにより、公平性と納得感のある人事評価とすることができます。
② リスキリング(学び直し)の推進 ― 「学ぶシニア」を支援する文化へ
リスキリングは、今や人的資本経営における人材育成のキーワードの一つとして重要な意味を持っており、新たなスキル獲得は、デジタル技術のみならず、広範囲が対象となりつつあります。しかしながらシニア層にとってリスキリングとは、多くの場合、依然としてデジタル技術の獲得のことを指しているのが現実で、Excel操作、チャットツール、クラウド管理――こうした日常的なスキルの差が、世代間のコミュニケーションギャップや、相互理解を阻む壁となっている可能性があります。企業は、若手社員や中堅社員と同様、シニア層に対しても積極的にスキル獲得の機会を提供すべきで、社内研修に加え、外部セミナーやeラーニングの受講支援、資格取得への補助制度などにより、年齢に関係なくスキル獲得支援を後押しするとともに、「リスキリングは自らの成長機会」という意識を醸成することが重要です。
③ 多世代・多属性メンタリング制度の導入 ― 双方向の知識交換を仕組み化
ダイバーシティ&インクルージョンは、今や世界各国で日常の中に取り入れられていますが、例えばメンタリング制度の中にも応用し、年齢や役職、性別、国籍を超え、知識と経験を相互に交換する「リバースメンタリング(=従来の一般的なメンタリングと立場を逆転(リバース)させ、若手が経営層やシニア層にアドバイスする)」や「クロスメンタリング(=企業や組織の壁を超えてメンタリングを行う)」を制度として導入することで、世代間の相互理解を進めてはどうでしょうか。
若手はシニア層から“暗黙知”を学び、シニア層は若手から新しい技術や発想を吸収する、こうした双方向の関係性が、チームの心理的安全性と生産性の向上、コミュニケーションの活発化につながります。また組織の壁を越えたメンタリングは、社外の客観的な視点による気づきや学び、企業や業界を超えたネットワークの構築につながることでしょう。このように、「世代や組織の壁を超えて学び合う」姿勢が企業文化として根づくことにより、職場の雰囲気も次第に風通しがよく、活気づいたものになることが期待できます。
④ 柔軟な勤務制度の整備 ― ライフステージに寄り添う働き方
シニア層が定年年齢を超えて70歳まで、あるいはもっと働くとなれば、健康状態や家庭事情への配慮が大切になります。週4日勤務や短時間勤務、在宅勤務、シフト制など、多様な勤務制度を提供する柔軟性は、本人の働く意欲のサポートにつながります。また、健康管理やメンタルヘルス支援、医療機関との連携など、シニア層特有の健康リスク管理や労働安全衛生対策も不可欠です。これらの制度はシニア層だけでなく、育児や介護、病気治療に直面し、仕事との両立を目指している社員にとっても有効であり、結果として全社的な働き方改革の推進にもつながります。
⑤ キャリア対話と配置設計 ― 「何ができるか」から「何をしたいか」へ
シニア層の能力を引き出すには、単なる配置ではなく、本人の志向性に基づいたキャリア設計をサポートすることが必要不可欠です。定期的なキャリア面談で「これまでの経験をどう活かしたいか」「どんな貢献ができるか、したいか」「どんな働き方であれば、家族や仕事を両立できるのか」の言語化を進め、本人意欲と組織ニーズのマッチングに最大限取り組むことで、本人のやりがい・成果の両立につなげていくことが大切です。
■まとめ
この5つの戦略は、単なる制度導入ではなく、「学び・貢献・多様性」の文化を企業内に根づかせる取り組みです。5つの戦略を「制度導入」で終わらせるのではなく、組織における日常の仕組みとして落とし込むことにより、シニア層に限らず、若手・中堅社員も等しく輝ける職場の環境整備につなげることが大切です。そして、「多様性(ジェンダー・国籍等含む)」と「共創」を軸としたチームづくりは、将来的に企業の推進エンジンとして必ず会社の成長に寄与すると考えます。まずはできることから一つずつ、実践可能な方策をぜひ試してみてください。
次回は、これらを実践することでどのような効果が得られるのか――モチベーション、定着率、生産性、組織文化といった観点から、その成果を掘り下げていきます。
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