2025年6月成立!カスハラ防止対策義務とは?活用したい支援施策を解説

企業へのカスハラ(カスタマー・ハラスメントの略称)防止対策等を定めた改正労働施策総合推進法が2025年6月4日に成立しました。これにより企業はカスハラ対策方針の策定や従業員教育を進めること等が求められます。東京都では2025年4月1日より「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行していますが、ついに労働法の枠組みの中でカスハラ防止対策が義務付けられることとなります。
本稿では、企業に求められるカスハラ防止対策の内容と、活用したい支援施策について解説します。
1.カスハラ防止対策が求められる背景
2.カスハラ防止対策の具体的な取り組み
3.活用したい支援施策:東京都カスタマーハラスメント防止対策推進事業
4.まとめ
■カスハラ防止対策が求めれる背景
カスハラとは「カスタマー・ハラスメント」の略であり、顧客、取引先、施設利用者等が社会通念上相当な範囲を超えた言動を行い、それによって労働者等の就業環境が害されたり、不当な影響を及ぼす行為を指します。具体的には、過剰なクレームや暴言、脅迫、不当な要求が含まれます。近年、こうしたハラスメントが深刻な社会問題となり、特に接客業や小売業などで働く労働者への負担が顕著に指摘されてきました。
今回の労働施策総合推進法の改正では、「カスハラ防止対策」を雇用管理上の措置として企業に義務づける内容が盛り込まれました。これにより、事業主は、カスハラ防止に関連する基本方針の策定、社内相談窓口の設置、マニュアルの作成等による体制整備等が求められます。この改正内容は、労働者保護に向けた重要な一歩を示しています。
■カスハラ防止対策の具体的な取り組み
カスハラ防止対策として様々な取り組みが求められておりますが、代表的なものの内容についてご紹介します。
①カスハラ防止対策に関する基本方針の策定と周知
企業はまずカスタマー・ハラスメントに対応する基本方針を策定する必要があります。この方針では、具体的にどのような行動がカスハラに該当するのかを明確にし、従業員だけでなく顧客や取引先にも理解してもらうようにします。また、この方針は単なる内規ではなく企業全体で共有されるべきものとなり、継続した周知・啓発・教育が重要です。
②相談窓口の設置と運営
企業にはカスハラに関して従業員等が相談できる体制を整備することが求められます。相談窓口を設置し、話を聞くだけでなく迅速な対応が取れるようにすることが重要です。特に、中小企業はリソース不足が課題となることが多いですが、外部の専門家等を活用することで運用をスムーズに進めることが可能です。また、相談内容の記録や秘密保持の徹底、相談者や当事者へのメンタルヘルスケアも重要な運営上の注意点です。
③従業員向け研修・教育の実施
カスハラを予防し、適切に対応していくためには、従業員等への教育は欠かせません。研修やセミナーを実施し、具体例を交えながら職場での実践的な対応力を高めることが必要です。特に一次対応窓口を担う従業員や管理職等については、初期対応やマニュアルに沿った発生時の対応フローの理解を深める研修が有用です。また、定期的な研修を実施することで、カスハラ防止対策への意識付けを継続していきましょう。
■活用したい支援施策
東京都カスタマーハラスメント防止対策推進事業
従業員等が安心して働くことができる環境を提供することは、企業の健全な運営に欠かせません。カスハラの被害を未然に防止し、適切に対応する体制を整えることで、労働環境は飛躍的に良くなります。
カスハラ防止対策を適切に効果的に推進いただくために、様々な支援施策が用意されていますが、東京都では「カスタマーハラスメント防止対策推進事業」として、企業向け奨励金等を提供しています。
対象事業主 | 常時雇用する従業員が300人以下の都内中小企業等 | |
奨励金支給額 | 40万円 ※1奨励対象事業主につき申請は1回限り |
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対象となる取り組み | カスタマーハラスメント対策に関するマニュアル+基本方針の作成と周知 | |
カスタマーハラスメントを防止するための実践的な取り組み ※以下のいずれか1つを実施 |
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①録音・録画環境の整備 |
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②AIを活用したシステム等の導入 |
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③外部人材の活用 ア 相談対応等の継続的な契約 イ 社内研修等のスポット契約 ウ 警備会社との法人契約 |
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カスハラ防止対策を進める上で、自社だけでは限界がある場合は外部専門家や外部サービスを活用することが有効です。特に、中小企業にとっては、法改正への理解や具体的な対応策を整備するリソースが不足しがちです。そのため、カスハラ防止対策に精通した弁護士やコンサルタント、また専門機関の支援を受けることは重要になるでしょう。
■まとめ
カスハラ防止対策について、改正労働総合施策推進法等の法改正の動向を交えながら、求められる対策や活用したい支援施策をご紹介しました。適切な対策を講じていくことは、従業員等の精神的なストレス軽減や離職率の低下にもつながり、特に人材資源が限られる中小企業にとってはカスハラ防止対策は重要な経営課題といえます。
汐留社会保険労務士法人では、様々な業界や業種への豊富な支援実績から、カスハラ防止対策に関する体制整備や研修等のご支援を行っております。法改正の対応や支援施策の活用等でお困り事がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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